【会員限定】極真通信 Vol.1 第48回全日本空手道選手権大会 観戦ガイド
2016.11.4

【会員限定】極真通信 Vol.1 第48回全日本空手道選手権大会 観戦ガイド

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メルマガ 極真通信Vol.1では、極真会館会員限定コンテンツとして、開催を明日に控えた第48回オープントーナメント全日本空手道選手権大会の、選手権日本代表監督・木山師範のトップ選手分析をブロック毎にまとめた観戦ガイドをお送りします。

今年の全日本大会の見所として、大きなテーマは2つあります。
一つは昨年11月に体重無差別の第11回世界大会を終えて、次回2019年に開催される第12回大会へ向けた新たなスタートになるという観点から、王座奪回を目指す日本にとっても、また優勝を狙う世界各国にとっても、今後3年間をリードする選手、あるいは選手育成に向けての指針となる大会になるという点です。世界大会の翌年は選手の新陳代謝が盛んになり、「世代交代の年」とも言われるので、ベテランと新鋭の対決という視点で観るのも興味深いと思います。そして日本選手にとって、今大会は来年4月に開催される第6回全世界ウェイト制空手道選手権大会の日本代表選手の選考大会になります。最終的には今大会と6月に行われた全日本ウェイト制大会の結果を合わせて、4階級の日本代表選手が選ばれることになりますが、重量級・軽重量級選手は今大会ベスト4、中量級・軽量級の選手はベスト8入賞が代表入りの最低ラインと私は考えています。ウェイト制大会で活躍した選手にも今回の全日本大会での戦いぶりや結果が選考を左右するということは、私からも伝えてあるので、選手たちは気を抜くことなく上位を目指して奮闘してくれるものと思います。

もう一つは、先に述べた6月のウェイト制大会よりルール改定が実施されたことです。これまでの認められていなかった片手での押し、両拳での突き放し、相手の手足に対する様々な捌き、さらに上段への蹴り技がクリーンヒットした際に気合いを伴った突きからの残心で技有りが与えられることなど、技術点を高く評価される内容になりました。また選手が犯した反則は厳格に取るというように改革され、6月のウェイト制大会では今まで以上に試合がクリーンになり、そしてより実戦に近い攻防が展開されました。それから5カ月後の全日本大会ですから、さらに選手の技術が磨かれて洗練されたものが披露されるのではないかという点は大いに期待し、注目されるところです。そして今回の改定されたルールを有効に活用し、駆使するような選手は、ある意味で2020年東京オリンピックで正式採用が決定した空手道のWKF(世界空手連盟)ルールにも適応することが出来るのではないかという大きな期待も込められています。


■Aブロック
トーナメントの見所を見ていくと、ABCDの各ブロックに日本を代表するトップ選手4名が配置され、彼らが軸となって上位争いが展開されるだろうという予想が成り立ちます。まずAブロックのゼッケン1番の髙橋佑汰選手は、90kg台の体重では考えられないような速いスピードと瞬発力を活かした躍動感ある組手が特長的で、彼の長所は離れた間合いでは上段廻し蹴り、内廻し蹴りといった一撃で倒す蹴り技があり、接近した間合いでも上段膝蹴りというヒット率の高い技を巧みに繰り出せるところです。要は、苦手とする間合いが無く、内廻し蹴りや胴廻し回転蹴りといった倒す技をどの距離、どの角度からでも放つことが出来る。今大会は無差別ですから、160cm台や170cm前半の身長の選手にとっては、非常にやりにくい、場合によっては髙橋選手に触ることさえ出来ずに一方的に試合を終えることも考えられます。
Aブロックで髙橋選手の対抗馬になりそうなのがアントニオ・トゥセウ選手(ゼッケン16番)です。彼は昨年の第11回世界大会準優勝のジマ・ベルコジャ選手の後輩にあたり、今年6月のオールアメリカン・オープンでは3位に入賞して自信を付けています。順当に勝ち進めば、3回戦で中村昌永選手との対戦が考えられますが、身長184cmで手足の長いトゥセウ選手に対し、中村選手は168cm。トゥセウ選手が上段膝蹴りを狙いやすい高さということになります。中村選手が勝つにはトゥセウ選手の長いリーチから繰り出される技を上手く捌いて接近戦に持ち込み、自分の攻撃を確実に当てていかなければ勝機はありません。対照的な身長、空手スタイルの二人ですが、だからこそ意外な決着が待っているということも考えられます。
そしてAブロックの最後には昨年世界大会で5位に入賞したアショット・ザリヤン選手(ゼッケン32番)が控えています。22歳と若くて実績のあるザリヤン選手は、170cm、75kgのいわば日本選手ともほとんど変わらないサイズですが、信じられないような身体能力を発揮して昨年は日本選手や同じロシアの選手を下してベスト8入賞を果たしました。また、今年5月のヨーロッパ・ウェイト制大会では中量級で優勝するなど日を追うごとに急成長を遂げているザリヤン選手は、今大会で最も注目される外国人選手であると言えます。ザリヤン選手の特長は、非常に一発一発の攻撃が強く、連打で畳み込むというよりもしっかりした技で相手にダメージを与えながら攻めていくタイプで、それでいて自分の間合いをキープしながら相手の攻撃を外すフットワークも持っています。

■Bブロック
Bブロックは荒田昇毅選手(ゼッケン64番)がエントリーしています。昨年第11回世界大会8位の荒田選手は、184cm、100kgの日本選手としては比較的大型の体格を活かしたパワフルな攻撃が一番の武器で、これまで数々の強豪選手を下してきました。その彼が今や29歳とベテランの域に達して、組手をどう変化させているのか、また改定されたルールをどう活用して戦っていくのかという点が非常に興味深いのですが、もともと荒田選手は相手との攻防の中で一瞬のスキを逃さずに足掛けで崩す技術を持っていました。下段蹴りにパワーがあるので、多少タイミングが悪くても強引に相手の足を刈って、相手が崩れて死に体となり、荒田選手が下段突きを決めれば技有りになりますから、こういった攻防では荒田選手が非常に有利になると考えられます。
Bブロックにはエルダー・イスマイロフ選手(ゼッケン48番)、アントン・グリエフ選手(ゼッケン49番)という海外の強豪選手がエントリーしています。
まずイスマイロフ選手は以前から非常に優れたテクニックを発揮する選手で、今年5月のヨーロッパ・ウェイト制大会では昨年80kg台前半だった体重を80kg台の後半までアップして軽重量級に出場し、ロシアの強豪イヴァン・メゼンツェフ選手と決勝を争い、本戦で完封して判定勝ちを収めて2015年の中量級に続いて2階級制覇を達成しました。もともと技にスピードとキレがあり、体重を上げたことでその技にさらに威力が加わったということですから、対する日本選手はただ単に相手に打ち勝つという組手ではなく、きちんとした対策を立て、戦略を持って臨まなければいけません。
グリエフ選手は昨年7月のブラジルでの団体戦決勝戦のユース代表戦で南原健太選手と対戦し、南原選手に打ち勝って判定勝ちを収め、11月のワールドユース・スーパーエリートでも+75kg級で優勝し、いよいよ満を持しての全日本デビューになります。193cm、97kgの大きな体から連打を繰り出して相手を圧倒するのが組手の特徴で、すべての攻撃力が高いレベルにあります。現在18歳ということですから、このまま順調に成長していけば3年後の21歳で迎える第12回世界大会ではロシアの有力なエース候補となって優勝争いに食い込んでくることは間違いないでしょう。大型のグリエフ選手が、今大会でルール改定をどのように活用してくるのかといった点も興味深いですし、小林龍太選手(ゼッケン52番)や中島千博選手(ゼッケン56番)といった日本勢が大きな相手に対して、無差別ならではの“小よく大を制す”戦いを見せてくれるのかといった所にも注目したいと思います。
悲願の全日本初優勝を目指す荒田選手ですが、グリエフ選手やイスマイロフ選手よりもむしろ要注意なのは、例えば1回戦の対戦相手である亀井元気選手(ゼッケン63番)のような若くて打たれ強さを持った選手の場合、延長まで粘られてそのまま体重判定(有効差10kg)で敗退という可能性もゼロではありません。仮に準々決勝の相手が竹岡拓哉選手(ゼッケン33番)だとすると、80kgの竹岡選手がヒットアンドアウェーを巧みに使った攻防で引き分けに持ち込めば、そこで体重判定ということもあり得ます。

■Cブロック
先頭にエントリーするのは、昨年第11回世界大会で日本選手最高位の6位に入賞した上田幹雄選手(ゼッケン65番)です。187cm、91kgの恵まれた体格はもとより、何といっても上田選手の武器は長い足を活かした蹴り技と、足腰のバネです。少年時代から空手と並行して相撲や柔道を経験して養われた足腰の強さがありながら、組手のスタイルは腰を落としてどっしり構えるのではなく、どちらかと言えば腰の位置は高めで軽くステップを踏みながら相手との間合いを探り、相手の攻撃が届かない距離から瞬発力を活かして一気に攻撃を仕掛けていくというのが、昨年の世界大会で見せた新しいスタイルで、彼なりに組手改革を試みた一つの成果が昨年の世界大会6位という結果になって表れました。また、今回のルール改定に関して、上田選手は総本部の合宿等の稽古に積極的に参加することで松井館長が目指すルール改定の本来の意義を早くから吸収し、さらなる組手改革に取り組んできました。それに加えて上田は全日本空手道連盟(全空連)の講習会に参加し、全空連の組手や形(型)のエッセンスを自分の中に採り入れています。新たに全空連のスピードや技の正確さといった要素が加わり、上田が1年ぶりの実戦でどのように変化し、進化しているのか、私も楽しみにしています。
Cブロックには他に6月のウェイト制大会軽重量級優勝者の石﨑恋之介(ゼッケン96番)や昨年の第11回世界大会で鎌田翔平選手を下したコンスタンティン・コバレンコ選手(ゼッケン81番)がいます。182cmと長身のコバレンコ選手と168cmの石﨑選手の対戦となれば、単純にリーチの差を考えればコバレンコ選手が有利となりますが、石﨑選手は「小さい選手にしかできない捌きや横の動きで大きな選手を凌駕していきたい」と語っていますから、彼なりに自信があるのでしょう。またこのブロックには清水祐貴選手(ゼッケン73番)、樋口知春選手(ゼッケン88番)、大澤佳心選手(ゼッケン89番)など、未来の日本を背負う新鋭が多数出場しますから、彼らが無差別の全日本大会でどのような戦いぶりを見せるのか、非常に楽しみにしています。

■Dブロック
ゼッケン128番という極真全日本のエースナンバーを背負うのは、6月の全日本ウェイト制大会重量級で優勝した鎌田翔平選手です。ルール改定に関して、少年時代に全空連の松濤館流空手を6年間経験している鎌田選手は、捌きや足掛けなどを有効に活かす技術を他の選手以上に理解していて、これまでの自分の空手に刷り込む作業も比較的容易だったと思います。また、鎌田選手の所属する東京城西支部は支部長の山田雅稔師範の教えもあり、創設当初から革新的な技術の創意工夫によって多くの強豪選手を輩出した伝統が今も受け継がれていて、今回のルール改定に対してもいち早く研究を重ね、選手達に指導が施されていました。さらに、実際に6月のウェイト制大会でそれを証明している強みが本人の中で大きな自信となって、今大会ではさらに磨かれた技術が披露されることと思います。そしてDブロックには、ゴデルジ・カパナーゼ選手(ゼッケン97番)とアレハンドロ・ナヴァロ選手(ゼッケン113番)という二人のベテランがいます。
カパナーゼ選手は今年6月には全日本ウェイト制大会、オールアメリカン・オープンとルール改定直後の2大会に連続出場して、オールアメリカンでは3度目の挑戦にして初優勝を遂げました。爆発的な攻撃力は健在で、相手の内股を狙った下段廻し蹴り、強烈な中段廻し蹴り、鋭く回転する後ろ廻し蹴りなどは衰えを知りません。日本選手は3回戦で6月の全日本ウェイト制中量級で初優勝した山田拓馬選手(ゼッケン104番)がどれだけ粘るか、また4回戦で山川竜馬選手(ゼッケン112番)との対戦となれば、これは6月のウェイト制大会の再戦ですからお互いに負けられない試合になるでしょう。
ナヴァロ選手は、2012年に第44回全日本大会優勝、翌2013年は第5回世界ウェイト制軽重量級優勝、他に世界大会や全日本大会での入賞経験があり、ヨーロッパ大会では無差別・体重別を問わず数々の優勝・入賞歴がある言わば40歳のレジェンド的存在です。そのナヴァロ選手に対して、大会の見所という点で言えば2回戦の相手と見られるベイ・ノア選手(ゼッケン115番)は10月9日のキックボクシング大会の新人王トーナメントで優勝して勢いに乗っていますし、3回戦の相手はヨーロッパ・ウェイト制大会軽量級優勝者で9月から総本部に空手留学しているキリル・プサリョフ選手(ゼッケン117番)とナヴァロ選手と同じ40歳の福井裕樹選手(ゼッケン120番)の勝者が有力になります。ナヴァロ選手が全盛時に見せたような終盤に畳みかける攻撃力が今大会でも発揮できれば、それら包囲網を突破して上位進出ということも考えられます。

誰が優勝してもおかしくない、実力伯仲の選手同士がぶつかり合うのが極真全日本大会の醍醐味ですが、私の立場から言わせてもらえば、今大会では何としても日本人の全日本チャンピオンの誕生が絶対条件となります。目標は日本選手のベスト4独占、久しく見ていなかった日本選手同士による決勝対決を実現させ、改定されたルールを十分に活用した内容の濃い試合で来年の世界ウェイト制大会につながることを期待したいと思います。